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さぷログ

メーカーの人事部門で働いています。

【書評】誰もが嘘をついている~ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性~

以前、会社で特命を受けて社内のパワハラの実態を分析した事がある。人事にまつわるあらゆるデータをかき集め、データセットの作成に3日ほどかけ、統計ツールの解析で1日、レポートの作成に1日、5日間ほどかけてレポートを完成させた。

分析をする前まではパワハラをするタイプの人間は自己愛が強くて、出世欲のある人間がそういう事をしてるのでないかと想像していたが、結果は驚くべきものだった。

もちろん、上記のような人間も入ってくるのだとは思うが、データとして確認できたのは、「最も優秀で会社も将来を期待している社員の一部」にパワハラの傾向が見られるという事実であった。

どういう事かと言うと、彼らは大変優秀で能力もモチベーションも高く、難易度の高い業務やプロジェクトを受け持っている事が多い。しかもそれをやりきってしまうのだが、その際に部下のリソースをギリギリまで使用する。要するに部下にきついプレッシャーをかけ、残業や休日出勤もさせ、難しい仕事を成し遂げているという事実が分かった。会社から見ると大変重宝している人材が、部下から見るとパワハラ以外の何者でもないという事実に頭を抱えたくなった。

次に出てきた傾向としては、そこそこ優秀である社員群の中で、「異動があまりなく、長期間同じ部署の管理職を務めている社員群」のパワハラであった。

これはおそらく、所属する部署で業務に関して一番のエキスパートになっており、誰も意見出来る社員がおらず、専制的な存在になってしまっている事が伺われた。

また、それ以外でデータで確認できたのは、長時間労働をしている管理職がパワハラをしている比率が高いことが分かった。

管理職の長時間労働とは、自身もプレイヤーとしての業務を持ち、部下も抱えている状態で余裕がなく、部下に対してイライラをぶつけてしまうというと言うようなケースが想定された。

この長時間労働と上記の一番と二番が組み合わさったケースが最もよろしくなく、大変優秀で切れ者の管理職が、難易度の高いプロジェクトを任され、自身も長時間労働でイライラしながら、部下をキツく叱って働かせている状況を推測すると暗澹たる気持ちになった。

パワハラ」というパワーワードを使ってしまうとそれ以上先の事を思考せず、パワハラの防止の研修等を実施して対策をした気になってしまいがちだが、データを分析するとそういう事ではなかった。

よって最優秀層の管理職に対しては、その上司から本人に「仕事ぶりには感謝しているが、部下から見るとパワハラの側面がないとは言えず、気を付けないとあなたのキャリアが台無しになる可能性がある」といったアドバイスや、業務の負荷軽減が必要であり、長期間同じポストに塩漬けの管理職は早期の異動実施、また長時間労働はやはりパワハラ防止の観点からも会社として働き方改革を強く進めたほうがよいというレポートを作成して、上司に提出した。

しかし、どうやら内容があまりにも生々しすぎたようで、お蔵入になった。私の5日間ほどの仕事と、パワハラの解消機会を逃した会社を残念に感じたが、個人的には然るべきデータを然るべき分析をすれば有効な対策ができると言う大変貴重な体験が出来た。

尚、統計については恥ずかしながら勉強中であり、検定とかまだよく分かっておらず、単順にヒストグラムと散布図と相関係数あたりで分析したのみでなので、もう少し技術を身に着けないといけないと思っている。

さて、前置きが長くなったが話題の本書である。いろいろな人が書評を書いているので、他の方が触れていないような個人的に気になった内容を書きたいと思う。

気になったのは、匿名であっても人はアンケート調査で嘘をつくということだ。著者がアメリカの方なので米国の例が多い訳だが、アンケート調査によると米国人のセックス頻度は高くて、私もその様な記事をどこかで見た事があり、やはりアメリカは違うなと思った記憶があるのだが、アンケートの回答とアメリカでの年間のコンドーム消費量を見ると明らかに整合性が取れず、Googleの検索でもセックスレスに関する検索が多いという事らしい。なんだかアメリカ人に急速に親近感が湧いた訳だが、匿名のアンケートであっても人は嘘を付くと言う事実に驚いた。

また、著者のセス・スティーブンス氏について感じるのはデータ分析力もそうだが、それよりも好奇心、ユーモアが大切だという事だ。

上記の米国人のセックス回数とか、普通真面目に解析しようという発想はなかなか起きない(褒め言葉です)

あと本には書かれてない事であるが、データ分析をしていると目からウロコの新事実というのは実は比較的少なく、当たり前の事がデータでも当たり前に分かったと言う事が往々にして多い中で、よくここまで事例を紹介できるほどの分析をされたのかと言う所であり、おそらくこの数倍はお蔵入りした分析結果があると思う。

データ分析で大変なのは、ツールで分析する前のデータセットの準備で、複数のEXCELシートをつなげたり、欠損値の扱いを考えたり、EXCELと向き合ってブツブツ言いながら関数であれやこれやしたり、仮説に足りないデータに気付いて頭を抱えたり、依頼しているデータが貰えなくて、どう催促したものか考えたり、そんな事をしている時間が多くて、その苦労に比べたら分析とレポートは非常に楽なパートである。

そんな想像をしながら本書を読むのも大変面白く、非常におすすめの本です。