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さぷログ

メーカーの人事部門で働いています。

【書評】ふろむださんの言う錯覚資産活用には錯覚原資が必要という事実 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』

ふろむださんという有名なアルファブロガーの方がいらっしゃるのですが、この本は一言でいうと「自分の能力を過大に評価させ、勘違いさせることで成功できる」といういわゆる自己啓発本になります。

この本の評価は二分されていまして、とても参考になる悪魔の書であるというものから、ファストアンドスローを薄っぺらくしたもので買う価値がない、というものまでありまして、非常に興味深い現象であると感じています。

ベストセラー本は評価が極端になる傾向はそもそもとしてはある訳ですが、この本には著者が確信犯的にあえて語ってない重要なポイントがあると思っています。

また、著者(及びおそらく編集者の方も)はマーケティングにかなり精通していると思うのですが、ある特定の層に刺さる本を書くという明確な意図に基づいて書いていると思われるのでそれぞれ以下に書いてみることにします。

まず、ふろむださんがあえて本に書いていない重要なポイントとして「錯覚資産」には「錯覚原資」が必要という事実です。(「錯覚原資」は当方の造語です)

繰り返しとなりますが、この本は「自分の能力を過大に評価させて、勘違いをさせる事で成功できる」と謳っている本であり、この本の冒頭でも容姿がいいというだけで、本来関係のない他の能力まで他人は高く評価するという事例が出て来ます。人間は如何に騙されやすいかという文脈で語られているのですが、逆にいうと美男美女というのはそれだけで容姿という資産を持っていると言うことでもあると思います。

この本の主張である「錯覚資産」ですが、資産を運用するためには何らかの原資が必要になるという指摘はこの本では最後までされません。この理由は後で述べます。

少し考えれば当たり前に分かる事ですが、自分の何かの長所を錯覚させたい(≒レバレッジをかけたい)場合は、英語なり、ITなり、専門分野の知識なり、人により少しは秀でていて、自分自身もそれを売りにしたいと思っている原資が必要です。

ふろむださんは常に錯覚を使わないともったいない!と主張される訳ですが、その為には「錯覚原資」というものがまずあって、それを使って錯覚させるという手順を踏む必要があるとは(おそらく意図的に)読者に伝えてはいません。

そして、ふろむださんと編集者が考えたと思われる本書の読者設定ですが、おそらく意識高い系の学生やビジネスマンを念頭において書かれたのではないでしょうか。

そしてここからが更に肝なのですが、基本的には不勉強で努力家ではない層を読者として対象にしているのではないかと思ってしまうのです。

どういう事かと言いますと、上記の読者層に対して「錯覚原資」の説明をすることなく、「錯覚資産」を使わないともったいないと説くことで、頭金ゼロで努力せずとも評価されるメソッドがあると見せかけ、意図的な誤解を生じさせているのではないかと推測されるのです。(頭金ゼロで10%の利回りが期待出来るアパート経営に投資できるのかという話と非常に似ていますね)

さらに付け加えると、ふろむださんのビジネスモデルは信者ビジネスだということです。信者クラスタの形成が完了しているので、その層が本を買うだけで十分儲ける事が出来ますが、ここでふろむださんもおそらく想定外だったのが、予想以上に売れてしまい、アンチクラスタ層も形成してしまった事ではないでしょうか。ただ、有名税でもある訳で信者をがっちり囲っておけば問題ないと思われます。

そのような訳でおそらくこの本を読んでも99%の人が「錯覚資産」を運用するための適切な「錯覚原資」を持ち合わせておらず、「錯覚資産」の運用に失敗すると思うのですが、仮に運用に成功出来たとしても不安は残ります。

なぜなら「錯覚原資」をセルフブランディングを駆使してずぶずぶに膨張させたものが「錯覚資産」になる訳ですが、貸借対照表でいうと高い金利で借り入れて負債が膨らみ、資産の大部分が実態のない錯覚だからです。

なので今度は「錯覚資産維持」という工夫が必要となるわけですが、早々に信者クラスタを形成してサロンの会費で儲けるか、錯覚であることがバレたら別の人にターゲットを移すか、錯覚させている間に本当に実力をつけてもっと大きな錯覚資産を得るための原資作りをするか、いずれにしても容易ではなく、読者層が最も苦手とする真っ当(?)な努力が必要となってきます。

また、錯覚で上手く形成したイメージを保持するために躍起になり、自分自身の素の実力とレバレッジをきかせた錯覚資産との乖離や成功者につきものの心無い罵詈雑言に心身を病んでしまういわゆる「北条かやシンドローム」に陥ってしまったら元も子もありません。

以上の事から私も含めて「錯覚原資」など持たない凡百の一般人は「錯覚資産」の形成などには決して手を出してはならないと思います。自転車操業になるのは目に見えています。手を出していいのは本当に能力があるのにセルフブランディングがいまいちな場合の工夫として使う場合のみではないでしょうか。

あと最後にこの本は1時間もあれば読めますが、定価が1620円です。錯覚資産のアイデアはファストアンドスローに寄るところが大きいと思うのですが、ファストアンドスローが上下巻が買える値段とほぼ一緒ということを付記しておきたいと思います。