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さぷ日記、主に本の書評

メーカーの人事部門で人材育成関係の仕事をしてます。仕事がら組織とか戦略とかの本の書評が多めです

【書評】「OJTの手引き」〜OJT関連の本を十冊読んだが50年前に出版されたこの本がスゴかった

僕はメーカーの教育部門で研修の企画運営の仕事をしているのですが、ある日ボスから「うちのOJTの力が弱まっている。OJTに関する研修を検討するように」という指示がありました。

研修担当者の尽きない悩みは、経営層から「リーダーシップを発揮出来る社員が少ない」とか「最近の若手はモチベーションが低い」とか、そういうお題を頂いてなんとか企画して研修を行うんですが、研修の効果測定というのは未だ有効なものは開発されておらず、出来る社員は研修でますます出来るようになり、出来ない社員は受けただけという結果になりがちであると言う事です。

また、研修をしたとしても効果が出るのはしばらく先であるはずなので、企業としての人材育成は必要だけど、うちの教育部門はだめだという評価になりがちだと思います。

そして今回僕が頂いたのはOJTというお題です。メーカーなので、生産現場のネジ締めから、AIとかに取り組んでる研究職まで幅広い仕事内容がある中で、OJTと言う言葉を聞いて一人ひとりが頭に思い浮かべる内容は微妙に異なるはずです。

企画するときに注意しないといけないのが、テーマの内容が各人各様の考えを引き起こしそうな場合は外堀を確実に埋めなければならないという事です。

特に教育関係でむずかしいのが、社会人であれば社員の皆さんは何らかの教育や研修を必ず受けてきているので、私の教育論をみなさん持っているという事です。

なので定義づけだったり、過去の同様の取り組みだったり、他社事例なども調べた上で上司に報告したり、役員会に諮ったりせねばなりません。これをやっておかないと議論があらぬ方向に行ってしまい頓挫してしまう可能性が高くなります。一方、資料作成にあまり時間をかけすぎても昨今の働き方改革の気運もあり、過剰品質は慎まなければなりません。難しい時代です。

さて、そのような中でどうしようかと思案したのですが、会社で以前はどのような事が行われていたのか、弊社の社史を見てみました。

そうすると1960年代頃は会社方針としてOJTが定義されていたという事実を見つけました。その中では、基本は自己啓発とし、OJTが日々の教育の場で、それで補えないものをoff-JTで行うと明記されていました。いい事を言うなと思いつつ、今の教育規定にはそれが書かれておらず、いつの間にか消えてしまったようです。また、OJT指導計画書もあって、提出が義務付けられていたようなのですが、これもなくなったようでした。社史は始めたことは書いてありますが、終わった事はあまり書かれていません。ただ、終了した事には何かしらの合理的な理由があるはずです。

あとはOJT関連の本を10冊くらい買ってひたすら読んでみました。その時に気を付けたのが、最新の本を買うだけでなく、年代ごとに買うと言うことでした。理由としては最新の本が必ずしも優れているということはなく、またOJTに関する考え方の変遷も見れるかもしれないと思ったからです。ちなみにAmazonで調べると容易に見つける事が出来るので、1960年代くらいから2冊づつくらい買ってみました。

その中で出会ったのが「OJTの手引き」という1979年に出版された本で、岸恒男さんという方の本でした。

1979年というのは高度経済成長期が終わり、1973年に第一次オイルショックが起き、さらに第二次オイルショックが起きた年です。本を読んでいて気が付いたのは現在の社会状況はオイルショック後の日本と相似形を成すということです。

いろんな方が仰っている事ですが、歴史から学ぶ事は大変重要です。全く同じ形で再現する事はありませんが、本質的な所では似通っている事も多く、且つ結果も既に明らかになっている訳です。過去から学ぶ事は数多くあります。

そして結論から言うと当時から本書で指摘されている事は全く古びていないと言う事がわかりました。要するにOJTを巡る状況は50年前から進歩がないと言う事です。

また、本書の中で自己啓発OJT、off-JTが大切であると説かれていました。ということは前述した社史の内容は、当時の有識者の意見そのままという事で弊社が考え抜いたものではなくちょっと残念な気持ちになりましたが、これも同時代の本を読んだからこその気付きです。

ちなみにこの本の中で、高度経済成長期以降の問題として、高人件費、技術革新や経営の競争による経験の陳腐化、労働観の多様化、高学歴化、高齢化、社会化、国際化への対応がそれぞれ重要だと説かれており、問題がほぼ同じ事に驚かされます。

また、OJT不信の原因は年功制であるとの考察や、再現性が低いものはOJTを実施しづらいなどの鋭い考察もあります。

さらにOJTの最終目標は相互啓発の「共有グループ」化という提言もあります。以下本文からの抜粋です。

『上司は必ずしも部下よりものを知っているとか、部下の経験したことがないような経験をしているとは限らない。今後はその逆も大いにあり得るということである。ニーズが専門分野の中で細分化し、多様化した時代では、一人の社員の変わった目新しい経験を、上司を含めて職場の全員が学び、そこから教訓を得るということは今後ますます必要になるだろう』

今から50年前に書かれたということにあらためて驚くとともに、この提言は今でこそ重要なのではないでしょうか。それ以外にも紹介したい内容がたくさんあるのですが、10冊程OJT関係の本を買って一番良かったのがこの本です。

東洋経済新報社から出版されており、現在は古書を購入するしかないですが、半世紀経ってもなお有効な本です。興味がある方はご一読をおすすめします。