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さぷ日記、主に本の書評

メーカーの人事部門で人材育成関係の仕事をしてます。仕事がら組織とか戦略とかの本の書評が多めです

【書評】「THE TEAM 5つの法則」にもやもやする件

リンクアンドモチベーションの麻野耕司さんという方のチーム運営に関する本なのですが、エリヤフ・ゴールドラット先生の「ザ・ゴール」と本のタイトルが似てるのと、SNSで評判がよかったのでつい買ってしまったのですが、「ザ・ゴール」で示された、制約理論(生産ラインのボトルネックが全体のスループットを決定する。よってボトルネックを常に探し、市場規模より少し多くの能力を備えて置くことだ)くらいの内容を期待していたのですが、どうも期待しすぎたようでした。

また、所々そうだなーと思う事もあるのですが、全体を通じて何かもやもやするので、そこの違和感を書いてみたいと思います。

僕は人事部で教育的な仕事をしており、選抜的な研修のグループワークでものすごい成果を出すグループと、空中分解寸前のグループまで50グループ近く見てきたのですが、そこで経験的に気付いたのはリーダーの重要性です。

格言的な言い方をすると「チームはリーダーの能力を超えられない」という事になるのですが、たとえ研修であっても、チーム内の役割というのは大変重要であって、仮に優秀な人が遠慮してリーダーにならない場合は、チームの力は格段に落ちます。スタンフォード監獄実験が有名ですが、我々人間は定められた役割に従ってしまうという基本的な性質を持っているのだと思います。

ということで、「チームはリーダーの能力を超えられない」という仮説の視点を持って、この本を見ていきたいと思います。

この本は「THE TEAM 5つの法則」の名前の通り、大きくは5つの章から成り立っており、AIM(目標設定)、Boarding(人員選定)、Communication(意思疎通)、Decision(意思決定)、Engagement(共感創造)の5つになっています。

頭文字がアルファベットのABCDEになっている是非はさておき、ひとつひとつ見ていきたいと思います。


AIM(目標設定)
この章では目標設定の重要を説いてるのですが、確かこの本でもこの手の例として出てくる有名な話で、教会を建設する為にレンガ積みをしている作業員に対して、「何の仕事をしてるんですか?」と聞いたときに、ある作業員は「レンガをつんでいるんだ」と答え、またある作業員は「人々が祈る場所を作っているんだ」と答えましたという有名な例え話があります。

同じ作業でも目的意識でモチベーションが全然違ってくるという教訓なのですが、メンバーひとりひとりが勝手に崇高な目的に気が付いていたら苦労は無い訳で、誰が目標設定をしているかというのが大変重要と言う事を伝えたいという章なのだと思うのですが、これはまさにリーダーの仕事だと思うのです。

それが気になってこの章で何回リーダーという単語が出てくるか数えたのですが、たった1回です。しかも以下の文脈で用いられているので、純粋にリーダーの重要性を説いている訳ではありません。

("担当編集の箕輪さんから「リーダー以外の人にも役立つ本にしましょう」"という部分)

うがった見方をするのは良くないですが、リーダーという言葉をあえて避けているような気もします。

これが僕の感じたもやもやの理由のひとつなんだと思います。


Boarding(人員選定)
チームは必ず4つのタイプに分類する事が出来、それをサッカー型、野球型、柔道型、駅伝型と分類されていて、ほんまかいなと思うのですが、僕が勤めているメーカーの生産部門は駅伝型に分類されています。

何故なら生産計画は中長期的に立てられ、短期的にはコロコロ変わるものではないという事なのですが、人材育成に熱心な企業は現場の改善に取り組んでおり、QC活動も実施している訳です。紋切り型に駅伝型と称されるのも違和感がありますが、駅伝型は従来の日本企業によく見られていたというような悪い例で使われています。

一方、称賛されているのがサッカー型で、要するにフレキシブルに戦うと言うことを言いたいのだと思いますが、本当に客観的な考察かというと、ちょっと違うのではないかと思います。

これは麻野さんご自身の成功体験として、リンクアンドモチベーションで新記事業を立ち上げの時に、外部やフリーランスの方に活躍してもらった経験から来ているものでしょう。

また、そのようなメンバーの人選は主にリーダーと言いますか、マネージャーの仕事です。

この本を読んでじゃあこれからはサッカー型だと思ったとして、どのように外部の力を活用するかはリーダー(マネージャー)でなければ出来ません。

また、適材適所、フレキシブルだからこそ、以心伝心は通用せず、しっかりした説明や外注管理が必要な訳で、例は申し訳ないですが、ヴィッセル神戸みたいにスター選手を集めても勝てないサッカークラブもあるように、サッカー型だからいいのではなく、よい監督(リーダー)が大切だと思うのですが、この章でもリーダーという単語は1回も出て来ません。

あと、サッカーの例はバルセロナのメッシを出しているのに対し、野球は巨人のV9時代を例に出してメンバーが固定化されていると理屈付をしていて、50年前を例に出すのはちょっと、、と苦笑してしまいました。


Communication(意思疎通)
コミュニケーションは範囲が広いので、この章に書かれてることもいろいろあるんですが、ルール設定の粒度、権限規定のルール、責任範囲のルール、評価対象のルール、確認頻度のルール、相手を深く知ってないと良質なコミュニケーションは成立しない、モチベーションタイプ毎の対応が必要、心理的安全性の確保なのですが、やはりリーダーの心得と言えます。

この中でひとつ注意したいのが心理的安全性です。グーグルがプロジェクトアリストテレスの中で成果を出すチームを分析して導き出した特徴の一つなのですが、要するにメンバーが安心して物が言える環境を作ると言うことです。

これは基本的に優秀なエンジニアしか採用しないグーグルだから特に成り立つ法則であって、これを普通のチームで実践するとどうなるかと言うと、レベルの低いメンバーの発言も安全生確保のために重要になってきますから、議論のスピードは絶対に落ちます。

優秀ではないメンバーをどう扱うのか、成長させていくのは永遠の課題ですが、グーグルやネットフリックスなどの超一流企業を除くと、短期的な心理的安全性の確保はアウトプットの質をさげると思います。(人材育成のために全て分かっててやるならいいとは思いますが)

あと、失敗事例共有とか、反論機会の設定などはいいと思いますが、これもリーダーが公平でメンバーからの信頼があり、本質を突いた応答が出来るかどうかが重要なのではないかと思います。


Decision(意思決定)
この章はやや異色で「正しい独裁はチームを幸せにする」とか、今までの流れをぶった斬る感じが個人的には好きなのですが、これもおそらく麻野さんの成功体験なのでしょう。会社は学級運営ではなくて、営利組織なのですから。

ただ、悪い独裁になってしまわないような歯止めのかけ方をどうするのかというのは大変重要だと思います。


Engagement(共感創造)
この文脈でのエンゲージメントとは、会社と従業員との広い意味での約束であって、従業員側としては、会社の理念に共感して高い貢献をするというような事だと思います。

その中で従業員のモチベーション維持について、多く言及されているのですが、個人的な経験としては、仕事の裁量の割合を増やせば基本的にモチベーションは上がります。(達成不可能なノルマ設定はしない前提ですが)

本書の中では、Philosophy(理念・方針)、Profession(活動・成長)、People(人材・風土)、Privilege(待遇・特権)がモチベーションに大切だと説かれています。

ただ、Privilegeを重視しているメンバーがいるとして、パフォーマンスが期待に達したり、そうでなかったとしてそのメンバーだけに、メリハリのある報酬体系を作るというのは無理ですし、あまり現実的ではないかなと思いました。

また、なんとなくですが、上記の4つのPは比較的若手の男性社員イメージしたような特徴な気もします。

チームにはモチベーションが高くない年配社員や、定時で帰りたい社員もいると思います。

そもそも低エンゲージメントのクラスタは対象外としているように感じられるので、別の章ではダイバーシティが重要と言いつつ、ちょっとひっかかります。

また、章の後半で感情報酬が重要であるとの記載がありますが、感情報酬の設定はいわゆるブラック起業のやりがい搾取に容易に結びつきますから、設定する側もされる側も注意が必要です。


まとめ
本書はチーム運営に関してオリジナルな主張はあまりなく(チームをスポーツの4つに分類するのが目立つくらい)、既視感が多いものでした。

また、このエントリーの最初に書いた、チームはリーダーの能力を超えられないという仮説については、本書はチームについての本であるため、可能な限り避けて書いたのではないかという印象です。(但し、意思決定の章でブレてしまってますが)

この本でとても残念だと感じたのが、著書の方がチームの法則で日本を良くしたいという想いがあるにも関わらず、チーム運営のテクニックという手段を目的化してしまっており、ノウハウ本の枠組みを超えることが出来なかった事です。

同じ幻冬舎の本でも前田裕二さんのメモの魔力は感動を感じましたが、この本にはそれはありませんでした。(そこまで求めるのは酷かもしれませんが)

また、法則に徹するならデータ重視で徹底的に理屈を書いて欲しかったのですが、経験則の域を出てないかなと思います。

本書は、この手の本を読んだことがない学生さんや、若手3年目くらいまでで、この手の本を何冊か読んだことがある方は、「ティール組織」とか「学習する組織」とか、読むのに難儀する本の方が為になると思います。

幻冬舎さんはSNSを含めてマーケティングがとても上手なのでつい買ってしまうのですが、簡単に読めるものは、すぐに役立たなくなるなーという事をあらためて学びました。

最初の話に戻すとやはりチームはリーダーが重要だと思いますし、スキルやノウハウはベースとして必要ですが、パッションとか、メンバーを尊重すると姿勢とか、総合的な人間力がとても重要だと思います。

THE TEAM 5つの法則 (NewsPicks Book)

THE TEAM 5つの法則 (NewsPicks Book)