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さぷログ

メーカーの人事部門で働いています。

ティール組織(ホラクラシー経営)は甘くないという話

フレデリック・ラルーさんのティール組織がベストセラーになったのはかれこれ1年以上前ですが、今ティール組織をググったり、Twitterで検索したりするとやたらティール組織に関するセミナーの案内が出てきます。

なんか怪しげな肩書の方も多くて、雰囲気的には有料サロン、仮想通貨、アフィリエイト等の関係の方々ととても良く似ている気がしますが、要するに「なんか面白そうだし、儲かりそう。先行者利益、ブルーオーシャンいえーい」と考え、これをネタにして有料セミナーや情報商材で儲けたい、いわゆる界隈系の方々の一部がティール組織(ホラクラシー経営)に飛びついているのではないかと思います。

それが示している事実としては、ティール組織(ホラクラシー経営)が、「なんだかよく分からないけど凄そう」という状況に未だあると言う事なのだと個人的には理解しています。

フレデリック・ラルーさんがこの状況を知ったら苦笑いしそうですが、新たな概念が広がり定着するまでは避けられないプロセスなのかもしれません。

ちなみに似たような状況なのが仮想通貨だと思っているのですが、こちらは「価値があることに価値があって、国家の保証はないけど決済にも使える不安定なシロモノ」という理解をしてしまうと、(名前が仮想通貨なのでややこしいですが)これを先物商品のひとつだと考えれば分かりやすくて、小豆相場に手を出して失敗したおじいちゃんの教訓を孫が活かせてないだけだけだとしたら、人間って本当に因果な生き物なのだと思わずにはいられません。

さて、かなり脱線しましたが、ティール組織(ホラクラシー)経営の話でした。

アマゾンのレビューなんかをみてても、「素晴らしい組織だ」「読んでいてワクワクする」「次世代のバイブル」みたいな事を言われている方が多いのですが、それはティール組織(ホラクラシー経営)の一側面であって、そんなに甘くないし、場合によっては恐ろしい事態になりかねないとも思うんですが、あまりそのような考察はないのでちょっと書いてみようと思います。

ティール組織は上下関係や階層がなくフラットで、組織を縛るルールも少なく、給料も自分で決められるという、夢のような組織として語られがちですが、ちょっと考えてみて下さい。

仮に私がティール組織で働いていたとして、何か新しいアイデアを思い付いた場合、従来の組織だったら上司に相談して、然るべき会議にかけ、稟議を通して決裁されて実施みたいなプロセスを辿るわけですが、そういうのは一切無いわけです。

ティール組織(ホラクラシー経営)では、それが好きなように出来るかといったら多分違って、ヒト・モノ・カネは常に有限ですから、他の仕組みが導入されているはずです。

例えば極端ですが、会社のキャッシュのうちでリスクマネーとして使える額が仮に1億円だとして、5億円する投資をしようとかいう事はいくらティール組織(ホラクラシー経営)でも認められない訳です。

と言うことは、まずティール組織で働いていたとしたら、キャッシュの見える化は必須な訳です。手元資金がどれくらいあって、売掛金の回収の平均はどれくらいかかっているのかとか、何か大きい事をしようと思う社員は財務の知識が必須になってくる訳です。ティール組織の社員は日々新たな事の勉強の連続です。

また、予算の件はクリア出来そうだとして、大きな事をしようとする場合は多くの人を巻き込まねばなりません。

上下関係などは無いわけですから、そういう立場を利用できず、自分の能力、熱意、人望といったその人の人間力そのものが試される訳です。

あと、給料が自分で決められるっていうのも魅力的に感じますけど、ティール組織では基本的に全てのデータが公開されるので、全員の給料が丸わかりです。例えば仕事も出来て人望があるAさんが給料を25万円にしていたとして、仕事の要領が悪くて周囲とも衝突しているBさんが自分の給料を30万円にしていたら、すぐに他の社員から総ツッコミが入るのは間違いありません。

また、景気が悪くなってきた場合には、経営陣が銀行を駆け回ることもないし、組合がベアアップに頑張る事もないので、一時的に賃金カットする事も、手取りを増やす事も全て自分毎として取り組まなければなりません。

ということは今まで経営陣や本社の管理部門に任せて、「あいつらコストセンターのくせに威張っていて気に食わないなあ」という愚痴は一切通用しない組織な訳です。全て自分に帰ってきます。

つまり、売り上げが落ちたら、銀行に融資をお願いするか、賃金カットをするのか、自分が組織全体を考えて主体的に決めないといけない立場になると言うことです。

いくらティール組織(ホラクラシー経営)だからといって会社法から逃れられない訳ですから、決済が2回できなかったら銀行から取引停止されますし、もし仮に倒産なんかした場合は誰かが最後まで責任を持って対応しなければならない訳です。

あと、悪意を持った社員が入社した場合の対応はかなり大変だと思います。階層がなくてフラットな組織であることが、逆にデメリットになってしまいます。

ティール組織は、組織に共感する人を社員にするという事で選考は時間をかけてじっくりやるみたいですが、仮に頭脳明晰でカリスマ性があり、会社を乗っ取る悪意がある人間が入社してしばらくしてから本性を表した場合、ティール組織はかなり脆弱な組織形態なのではないかと思います。

また、そこまで行かなくても派閥が出来てしまったりした場合は最早ティール組織とは言えなくなってしまいます。

なので、ティール組織(ホラクラシー経営)は、「全体性(ホールネス)」を重要視しているのだと思います。

ネットを見ていると、例えば社員が会議室に集まり、誰も座ってない椅子を置いて、会社の存在意義を皆で考えるというような事例に対して、スピリチュアル的でちょっと受け入れ難いみたいなコメントも見受けられます。

個人的な見解ですが、これは独裁的な人物を出現させないためのかなり優れた取り組みだと思います。

中心に誰も座ってない椅子は、誰かに権力を集中させる事はないという組織の意思を可視化したものに他ならないからです。

また、人事評価も当然ない中で、ティール組織(ホラクラシー経営)がどのような工夫をしているかというと、顧客から直接フィードバックを社員がダイレクトに貰える仕組みを構築しています。

例えばオランダのビュートゾルフは在宅ケアのサービスなので、それこそケアしている方から直接感謝の言葉もクレームも受け取る訳です。フランスの変速機メーカーのFAVIも、納入先のメーカーと社員が直接やりとりする中で、あるケースでは納期を守るためにヘリコプターをチャーターしたという話も本の中で出てきます。

そして日々生じる良い事例や失敗例、どうしたらよいか分からないことなどは、社内SNSで瞬時に共有されて組織知となり、質問に対しては社内の有識者から回答がすぐ来るような仕組みを構築しているようです。

ドラッカーはマネジメントの中で「組織は構成員が増えるごとに表面積が2倍、体積は3倍になる。組織の自重に耐えるために内部の規則、評価、風土作りにかけるウエイトが大きくなり、徐々に顧客を見なくなるジレンマに直面する」と言っています。(若干意訳してます)

また、ダンバー数というものがあります。人間が頭の中だけで認知出来る限界は凡そ150名までで、それを超える事はないそうです。イケイケのベンチャー企業が規模を拡大する中である時期から成長が鈍化するというのはよく聞く話ですが、この150名が閾値なのかもしれません。

あと、弊社は世間一般のカテゴリーでは大企業に分類されますが、不思議に思うのは、社内へのメールなのに「○○様」という表現が幅をきかせています。当然、頻繁にやりとりする間柄の人には「○○さん」もありますが、要するに規模が大きすぎて同じ会社の社員であっても、仲間とは見なしていないということなのだと考えています。

既存組織であれ、ティール組織であれ、組織の維持が困難である事におそらく変わりはありませんが、基本的に性善説と徹底した情報共有を行う事で社内における社員ひとりひとりの能力の発揮と自浄作用に期待するティール組織(ホラクラシー経営)は意外に理にかなっていると思います。

ただ、肩書が一切通用せず、素の人間力が試されたり、財務や人事、法務的な知識も必要になってきたり、自由度が高い分だけ節度が求められられたり、悪意を持った人間が入ってこないような歯止めと、仮に独裁的に振る舞いつつある場合の自衛など、ティール組織(ホラクラシー経営)ならではの苦労はあると想います。

極論ですが、ティール組織であっても組織の発展段階であると本書で語られているレッド組織、アンバー組織、オレンジ組織、グリーン組織にしても、あくまで目的達成の為の手段としての組織であるはずです。

ティール組織のハコを作ってもそこに魂がないと意味はありません。大切なのは組織形態や自分の立場が何であっても「それはお客さんの為になっていて、対価を頂くに値するのか?」を常に問い続けていく姿勢と実践なのだと思います。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

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