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さぷログ

メーカーの人事部門で働いています。

「働かないおじさん」を全力で擁護する

「働かないおじさん」というそこそこのパワーワードに対してはかなりのイライラ感を隠せない就職氷河期世代改め人生再設計第一世代の一人なのですが、今回は全力で「働かないおじさん」擁護してみたいと思います。

この「働かないおじさん」ですが、おぎゃあと産まれてからずっと「働かないおじさん」だった訳ではないと思うのです。

いまは全方向から避難を浴びている「働かないおじさん」ですが、新卒で入社した投資はピカピカのスーツでやる気に満ち溢れ、残業も休日出勤も厭わなかったキラキラした社員だったに違いありません。なぜそのような若手社員が「あの人何やってるかわからない」と陰口を叩かれる「働かないおじさん」になってしまうのでしょうか。

さて、どの会社でもそうだと思うのですが、弊社でも出世のゴールデンコースみたいなのがあります。例えば営業だと最初は国内の支店に配属されてから、本社勤務になり、海外現地法人にも出向して、経営企画室、もう一度海外現地法人でトップ、執行役員、役員みたいなサラリーマン出世すごろくです。

社員の社内の職務経歴を見ているだけで、この人は出世街道をひた走ってるなとか、あの人はこのタイミングで出世競争から外れたな等が分かったりするものですよね。

だいたい出世競争は30歳くらいで目星がついて、40歳くらいでは選抜はほぼ終えてるのですが、日本企業の人事部が凄いのは、とっくに選抜ルートから外れているのに50歳くらいまでは本人にそこそこ期待を抱かせる人事異動をする事です。

ただ、これも位打ちみたいな事になってしまって、自分の能力に余るポジションに配置されてしまい、そこでやらかしてしまったり、ローパフォーマーぶりを発揮する事で自分に自分で引導を渡してしまう誠に残念なおじさんもいたりしまして、名実ともに閑職へ異動となり、そういう時の送別会はかなりしょっぱい感じなんですが、皆本音は押し隠して粛々と振る舞う姿には我々ジャパニーズの様式美を感じずにはいられません。

さて、「働かないおじさん」の話です。話は前後してしまいますが、この「働かないおじさん」は主に歴史のある昭和的な日本の会社で生息しています。

よく言われる事ですが、日本企業の三種の神器は「終身雇用」「年功序列」「企業別労働組合」です。もうひとつ足してよいとしたら「新卒一括採用」も入れたい所です。

なぜこの仕組みが出来上がったのかはそれはそれで興味深いのですが、それは別な機会に譲るとして、このようなジャパニーズトラディショナル企業に新卒で入社すると、出世への時間無制限の一本勝負という途方もないロングウェイの戦いに身を投じることになるわけです。

そしてこの「働かないおじさん」とは、どこかのタイミングでこの長い戦いから戦線離脱した(させられた)社員に他ならない訳ですが、一方的で優秀で出世している社員というのは、「働かないおじさん」の屍の上に成り立っているとも言える訳です。(この方々は社長を筆頭とした「働くおじさん」と言えますね)

日本は上記の通り、まだまだ新卒一括採用というポテンシャル採用に頼ってますから、ある程度の人数を採用しないとそこから優秀な社員は出てこない訳です。「働かないおじさん」とは、優秀な社員を出現率させるための必要悪と言えます。ガソリンを精製しようとしたら、必ず軽油も精製されますが、そのようなものかもしれません。

また、「働かないおじさん」はかなりの高給取りであることも非難されがちですが、これも会社として安心して働けるという制度設計をしているからに他ならず、優秀な社員や若手が安心働く事が出来る為に必要な仕組みであるという事です。これは「働かないおじさん」が悪いのではなく、従来型の日本企業の構造的な仕組みです。

決して会社は「働かないおじさん」に高給を払いたい訳ではないのですが、組織の維持の為にここ迄せねばならないという現実があるのだと思っています。そして、担当課長とか担当部長とかいう部下がいなくてなにを管理しているか分からない管理職が社内にそこそこの規模で存在する訳です。

そしてもう一つ重要な視点として、能力のない人間がやる気を出そうとするとろくな事がないという事です。「能力」の高低と「やる気」の高低があるとして、「能力」が高くて「やる気」もある社員がベストなのは言うまでもありません。そして、次にましなのはまちがいなく「能力」が高くて「やる気」がない人間です。そして一番やっかいなのは「能力」は低いのに「やる気」がある人間です。

これが若手ならまだ伸び代もあると思いますが、個人的には45歳を過ぎてからの伸びにはさほど期待は出来ません。

能力の低いのにやる気のあるおじさんというのは、おそらく的外れな事をやりまくり、周囲を疲弊させるでしょうから、それなら何もしない方がましで、会社としてもそのように仕向けます。

つまり「働かないおじさん」とは、会社から「働かなくていいと言われたおじさん」という事なのです。明示されないものの、会社命令なら仕方ないですよね。