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さぷログ

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【書評】女帝 小池百合子

女帝 小池百合子 (文春e-book)

女帝 小池百合子 (文春e-book)

「なんでも作ってしまう人だから。自分の都合のいいように。空想なのか、夢なのか。それすら、さっぱりわからない。彼女は白昼夢の中にいて、白昼夢の中を生きている」(本文から)

 

今話題の「女帝 小池百合子」ですが、本書で小池百合子がなぜ新型コロナウイルスの対応で存在感を発揮できているのか理解出来た気がします。

 

著者はノンフィクションライターの石井妙子氏で、2016年に「原節子の真実」で第15回新潮ドキュメント賞を受賞されています。

 

「女帝 小池百合子」は延べ100名以上にインタビューを行い、足掛け4年かけて出版された渾身のルポです。基本的には抑えた筆致で幼少の頃から現在に至るまで、関係者へのヒアリング等の内容を丁寧に時系列で記述された本でした。

 

そして、小池百合子を理解するカギは、「父親」「芦屋」「顔のアザ」「敵」にあるのではないかと感じたので、そのことについて書いてみます。

 

<父親について>

「小池さんの前で父親の話はタブーだよ。途端に機嫌が悪くなるからね」

 

小池百合子の父親は勇二郎はかなり大法螺吹きで、不義理な人間であったようです。本書には様々なエピソードが書かれていますが、例えば「海軍中尉」で「満鉄調査部」にいたと言っていたようなのですが、歴史にあまり詳しくなくても陸軍と関係の深い満鉄と海軍に所属することはできないと思うのですが、気に入った他人の経験や経歴を自分のものとして語る癖があったようです。

 

そして本書を読み進めると父親と言動や行動がかなり似ていることに気付かされます。もし、父親が誠実で嘘は戒めるような人物であればどうなっていたのだろうとつい想像してしまいます。

 

<芦屋について>

「芦屋は坂の町である。坂を上がり、坂を下る。豪邸もあれば、ごくつつましい家も見受けられる」

 

関西以外の方は芦屋と聞いて六麓荘のような豪邸が立ち並ぶ風景を想像してしまうと思うのですが、実態はもう少し複雑です。僕は昔関西に5年ほど住んでいたのですが、当時は関西でこのようなやりとりをたまに聞きました。

 

A「家どこ?」

B「芦屋」

A「どうせ海っ側やろ~」

B「ばれたか!」 

 

芦屋は高い建物があまりないため、一帯の空間を把握することは比較的容易です。六甲山の中腹にある富裕層のお屋敷から、海側に近づくにつれてきれいなグラデーションを描きながら所得階層の違いがこれほどあからさまにビジュアルとして見えるのはもしかすると芦屋だけかもしれません。

 

小池百合子の実家はちょうど平均的な場所に位置していたようなのですが、上昇する(成功する)という事がビジュアルとして可視化されていた中で生活していた訳です。著者が指摘しているように土地が与えた性格への影響は深いものがあるかもしれません。

 

<顔のアザ>

「疲れてくると化粧の下から浮き上がってくるんだ。(中略)こっちの表情を見て、彼女はハッと顔をそむけた。そんな経験を何度もしてきたんだろう」

 

あまり人の外見については触れるのは良くないと思うのですが、今から数十年前で「お嫁に行く」というのが当たり前として考えられていた時代、相当につらい経験をされてきたのだと思います。

 

小学生の頃からアザを消すために化粧をしていたと本書には書かれています。そして著者は「隠す」という行為は小池百合子にとって当たり前の所作なのではないかと推測します。カイロ大学卒業の疑惑に通じている道の一つなのかもしれません。

 

<敵>

「世間への恨みがあるんでしょうか。社会的な地位が高い人にすり寄っていくイメージがありますが、最後はそういう人を足蹴にする」

 

小池百合子新型コロナウイルスの対応で株を上げる前に政治家として成し遂げた事を挙げるのは難しいと思います。

 

防衛大臣はわずか55日で投げ出し、官僚からのレクチャーも嫌がったそうです。逆に、グラビア撮影やテレビ出演には積極的だったようで、近くで接していた人物からは「政治家として達成したい事はなく、ただ目立ちたい、上に上り詰めたいだけなのではないか」と批判されています。

 

そういった中で、今回の新型コロナウイルス禍が発生したわけです。新型コロナウイルスは明確に「敵」であると言えます。小池百合子が得意とする「敵」との対決の場が用意されたわけです。

 

また、率先して情報発信するという点についても、目立ちたいという願望をストレートに実現させるものであり、ワールドビジネスサテライトの初代キャスターとしての技能が遺憾なく発揮されているように思います。

 

そして次回の都知事選で小池百合子の当選は間違いないと言われていますが、とても悪運が強いと感じます。100年に一度あるかどうかという最も得意とする舞台が図らずも用意されてしまった訳です。

 

本書ではカイロ大学の卒業疑惑についてもかなり詳細に記載されています。実際本を読んで頂きたいと思いますのでこのエントリーでは触れませんが、ネットを見ていたら、カイロ大学から卒業証明書を発行されるというニュースが報じられていました。

 

個人的にはついに黒が白になったのかと思いましたが、日本はエジプトに対して例えばJICAを通じてエジプト・日本教育パートナーシップで186億円の円借款をしていますし、大エジプト博物館にも500億円近く供与しています。自民党とも近い日本の有力者の機嫌を損ねるくらいなら、卒業証明書の発行など安いものだと思います。

 

小池シンパ側からすると「周囲から証言を取っただけで、事実かどうか定かではない。推定無罪という言葉を知っているか?」というような反論が届きそうな気はします。

 

おそらく、次の4年の東京都知事小池百合子で決まりだと思いますが、目立つことが好きで粛清人事を行い、深い考えがなく思い付きで行動していると言われているので、おそらく都政は停滞するのではないでしょうか。

 

歴代の都知事である青島幸男石原慎太郎、猪瀨直樹、舛添要一はそれぞれいい辞め方をしていませんから、小池百合子にどのような歴史の判断がなされるのか興味があります。

 

また、このエントリでは言及しませんでしたが、エジプト時代の同居女性。合わせ鏡のような従妹の存在。舛添要一との因縁、拉致被害者家族会やアスベストの被害者、築地の方々への冷たい仕打ちなど、多角的に小池百合子を浮き上がらせており、著者である石井妙子氏の執念を感じます。

 

「彼女には別に都政でやりたいことなど、ひとつもなかったのだ。求めたものは新たな敵と新たな戦場。戦場でしかヒロインになれないと知っていた」