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さぷログ

メーカーの人事部門で働いています。

「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガデン」をほぼ予習なしで見た43歳のおじさんの感想

※このエントリーはネタバレを含みますのでご注意下さい。

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さぷさんです。頑張ってヴァイオレット・エヴァーガデン書いてみました。義手が難しいです。(追記:以前は手書きイラストを載せていましたが、お絵描きツールで書き直しました)

さて、単身赴任で地方の自宅には帰れない中で、有給取得目標達成のために特に予定も無いのに休まなきゃいけない(休めという会社自体は大変ありがたい)43歳のおじさんです。

例えるならプロ野球の消化試合で、注目されるのはピッチャーの最多勝の個人記録のみであるにも関わらず大炎上し、敗戦処理で登板した2番手ピッチャーのような感じでしょうか。

そんな訳で少しでも充実した有休にすべく、今話題の「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガデン」をひとりで見に行きました。ハンカチを2枚ほど持ち、泣く準備は万端です。

東京郊外の平日のシネコンはあまりお客さんはおらず、10名程度でした。ほぼ全員ボッチライダーで安心しました。男女比はやや女性が多かったような気がします。

僕はテレビ版を見ておらず、You Tubeで最低限の予習だけしました。世界観と神回と言われている第十話の内容だけは頭に入れました。

また、京都アニメーションが背負っているものは大変大きく、深い悲しみと苦労があって公開されたのは情報として知ってはいますが、あくまで内容のみの感想となりますのでご了承下さい。

他の方の感想にもあるとおり、映像表現がとても秀逸で、キャラクターの感情を表現しているかのような天気や第一次世界大戦前後のヨーロッパを参考にしたと思われる街の空気感、自然や花の描写など、没入感と言うそうなのですが、ヴァイオレットがその世界に本当に住んでいるような描写でした。

あと、音もとても良くて、ヴァイオレットの義手のずしりとした重みなどがよく伝わってきました。

また、ヴァイオレットがギルベルトを想う純粋な心とその表情は本当に応援したくなりました。

そのような訳で間違いなく良作なのですが、個人的に途中涙ぐむ所はあっても、号泣までにはならなかったのでその辺りについて無粋を承知で書いてみたいと思います。

《やはりテレビ版を見ないと》
テレビ版は全部で13話あるようなのですが、キャラクターへの思い入れという意味で、テレビ版を見ているのと見ていないのでは全然違うと思うんですよね。ヴァイオレットが感情を獲得していく描写やディートフリート大佐との因縁などを見ていないと思い入れが深まらないのは当然であって、反省点です。

《戦争と性の問題》
ヴァイオレットは戦争孤児という設定ですが、女性が孤児で拾われたとして、戦闘要員にするのかなと思いました。確かに強そうではあるのですが、これを言ったら話が成り立たんでありましょうという事は百も承知しているのですが、どうしても気になってしまいました。普通の戦争であれば兵士の慰安施設に送り込まれてしまいそうですが、そんな話には出来ないのは十分理解しつつも世界観の書き込みが秀逸なせいか、逆に気になってしまいました。すみません。

《軍の規律》
軍隊というのは規律が最も重要だと思うのですが、ギルベルトは間違いなく兵士の中でもヴァイオレットを優遇して読み書きを教えているので、軍の規律が乱れないのかが気になりました。これについてもそれを言っては話が成り立たない訳ですが、気になってしまったのです。

《ヴァイオレットって》
ヴァイオレットは戦争孤児で感情を知らずに育ったという設定で、他の人が感情的な共感を求めて話しかけても理屈で返してしまい、相手が苦笑するというシーンが何度か出てきます。ただ、ヴァイオレットは基本的に他者思考で論理的なので、それってもしかしてなかなか理想的だったりしますし、人の心の事も分かってきているので、人として相当完成されている中で、最早物語は少佐に会いたいの一点に絞られる訳ですが、少佐が以下の通りな訳です。

《ギルベルト、ちょっと来い》
ギルベルトはヴァイオレットを愛しているのにも関わらずにフーテンの寅さんのように流浪した挙げ句、ある島で隠居生活をしている訳ですが、そこはもう何年か経ってるんだし、お主からヴァイオレットに会いに行けよ、いいから会えよと思ってしまった訳です。

という感じで、心が純粋ではないおっさんであるがゆえ、100%世界に入り込めなかったというのが正直な感想でした。


ただ、なぜここまでヒットしてるのかなというのはいくつか思う事があったので、そのことについても書いてみます。

《全員いい人》
これは「私の家政夫ナギサさん」との類似点が指摘できると思うのですが、登場人物がみんないい人です。もしかするとテレビ版ではディートフリート大佐はいやな役だったのかもしれませんが、ヴァイオレットが落としたリボンを届けてくれたり、劇場版ではいい人です。見ていて安心でした。

《ヴァイオレットは優秀なカウンセラー》
ドールとしてとても優秀なヴァイオレットですが、なぜ人気があって予約が3ヶ月待ちなのかと言うと、クライアントが言葉に出来ない心のもやもやを的確に言葉にするのですよね。私たちもヴァイオレットに手紙を書いてもらいたいとつい思ってしまいます。

《性的な描写がゼロ》
カトレアの服装以外は性を連想させるものが「ヴァイオレット・エヴァーガデン」からはきれいにトリミングされています。キスシーンすらありません。後述しますが、ヴァイオレット・エヴァーガデンの原作は小説という事ですが、少女漫画の文脈をしっかり守っている作品なのかなと思います。

《目の幅の涙》
少女漫画特有の表現として、目の幅いっぱいに溢れる涙というものがありますが、ラスト3分の1は常に誰かが泣いていて目の幅の一杯に涙を流しています。

赤ちゃんと僕
ユリスと弟が「赤ちゃんと僕」の拓也と実にそっくりというか瓜二つで、とくに弟は顔や話し方まで実にそっくりでした。完全に泣かせにきてますし、「赤ちゃんと僕」は本当に泣けます。また漫画読みたいですね。

《男女離散もの》
離れ離れの男女が障害を乗り越えて再開する物語を男女離散ものというかどうかは分かりませんが、「君の名は。」とか「タイタニック」とかずらり名作が揃う訳です。個人的には「エウレカセブン」でアネモネとドミニクが空中でフリーフォールしながら再開するシーンがあるのですが、あの再会が最高でした。あ、「ヴァイオレット・エヴァーガデン」の話ではなくなってしまいました。

《情景描写とか》
ヴァイオレットとギルベルトの出逢いに暗雲が垂れ込めているときは土砂降りですし、心理的な描写と情景の描写が見事にシンクロしています。また、ヴァイオレットは髪を2つお団子にしていますが、片方は戦争のトラウマと、もう片方は心を取り戻しつつある方を象徴しているのだと思いました。ヴァイオレットが2つに引き裂かれている事を義手で象徴的に表現していますが、それを強固なものにしていると言うことです。そのバラバラの心を一つに統合するためにエメラルドのブローチが存在しているという構図なのだと理解しました。

《テクノロジーの進化というね》
電話の発達によりドールの仕事がなくなろうとしている時代の残酷さも書かれていますが、その電話が終盤に重要な役割を果たしたりします。ただこのシーンは結構バタバタな感じで完了して、あっさりめの味付けでした。


そして最後におっさんがヴァイオレット・エヴァーガデンを見るという事についてです。

《いつかの花火》
2児の父親の僕にとって恋愛は「遠い日の打ち上げ花火」であり、遠くで上がっているものをきれいだなと眺めるようなものでした。ヴァイオレット・エヴァーガデンの「あいしてる」は文字通りの相手を慈しみ、かけがえのない唯一無二の人として想い続けるという気持ちです。

そんな訳で20代の頃に5年付きあった彼女と遠距離恋愛になり、2年であっさり別れた記憶がこの映画で蘇るという不測の事態を迎えましたが、個人的には恋愛はもう十分なんです。

むしろ家族愛の方が強くなってるので、ユリスのシーンの方が泣けたというのが正直な感想です。

と、無粋な事を書き連ねてしまいましたが、冒頭に書いたとおり世界観が秀逸でヴァイオレットが尊い訳です。つらい戦争の記憶のシーンは随所に出てきますが、基本的に今は平和な時代で、登場人物も皆善人です。

新型コロナウイルスでついに現実がドラマを超えてしまった中で、安心して見る事が出来る作品という事も言えるかもしれません。

そして、今好きな人がいたり、遠距離恋愛中の人にはとてもぴったりな映画だと思います。

残念ながら僕は「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガデン」と出会うのがちょっと遅かったようです。でもそれがあらためて分かったというのもまた素晴らしいことです。