さぷさんです。教育は大事ですが、教育とはじわじわ効果が出てなかなか定量的に把握できないものなので、エース級の人材はそもそも配置されないか、もしくは配置されても兼務になっているような状態が実情でありまして、あまり自社の教育にじっくり取り組めておらず、業者に丸投げな現状があったりします。(もちろん企業によりますが)
さて、東洋経済でコロナ禍での新入社員の育成についての記事が話題になっています。
新入社員ほど「コロナで損する」日本企業の失態https://toyokeizai.net/articles/-/378491
記事の中で諸悪の根源は危機感の薄い教育担当者と経営者と書かれていますが、確かにその通りだと思うのでその事と、もう一つ記事の中で触れられている日本が強みにしていたOJTとは一体何なのか、かつては何が強味で何が駄目になってしまったのかを書いてみようと思います。
教育担当者と経営者は人材育成を効果的に行われていないということで諸悪の根源とされていますが、少し前に富士通が5000人リストラしたり、ついにトヨタが一律の定期昇給を辞めると言っているのは自社の人材育成が出来なかったとカミングアウトしているようなものです。
ただ、人材育成というと非常に抽象的な中でもうちょっと具体的に話したいと思うのですが、仮に以前は曲がりなりにも人材育成が出来ていて、リストラの必要がなかった時期と今では何が変わってしまったのかと言うことです。
富士通はご存知の通り電電ファミリーですから、バブルが崩壊する前までは電電公社の設備投資で巨額の利益があった訳です。当時の自民党も景気が悪くなってくると設備投資額を増やして景気浮揚を狙うというのをしていましたから、それで上手く回っていた訳です。
トヨタについては、CASEが自動車会社の命運を左右する中で死にものぐるいで各種戦略を立案実行する中で、定期昇給や年功序列ではもはややっていけないという危機感だと思います。
つまり、富士通やトヨタを例に出しましたが、日本の多くの企業は平時から戦時モードに突入していると言うことです。
平時は決められた事を決められたようにやっていれば会社は儲かった訳で、極端な事を言うと先輩の仕事をそのままトレースしていれば基本的にはよかったのだと理解しています。
要するにそもそも日本企業に有事に柔軟に対応できるような人材育成プログラムがあったのかと言えば、それはおそらくNoであって、同じことをしていたら儲かったので研修には力を入れずに現場でのOJTに頼っていたのではないかと思います。富士通で言うところの電電ファミリーのビジネスが上手く言っていた時であればこれは目的合理的です。
そしてバブル崩壊以降の失われた30年で、ついぞ日本企業は人材育成について有効な手を打たずに、経営者の怠慢と人材的に劣る教育担当者の能力不足によりずるずるここまで来てしまったのが実情だと思っています。
よく経営者は「環境の変化に対応する人材を育成しなければならない」と言いますが、実際対策を講じておらず、口だけになってしまっていたところ本当に火がついてきたという感じです。
よって日本の人材育成が新型コロナウイルスによって死んだのかというと、環境の変化に対応する人材の育成など行っていなかったので、そもそも生まれていないし、生まれてないものは死ぬことも出来ないという事なのだと思います。
そして、OJT なのですが、OJTも定義があいまいで「現場のOJT の力が弱まっている」とか言われるとなんとなくそうだなと思ってしまうのですが、本当にそうなのでしょうか。
OJTが有効なケースは一点のみあって、その一点とは「熟練者と同じ動作を繰り返す事で技能が向上する」です。
例えば、現場作業者の溶接や塗装、経理伝票の処理方法、対処方法が類型化されている法務案件などは、熟練者の作業をトレースするだけで技能の向上が可能です。
つまり、今「現場のOJT の力が弱まっている」と言う場合は、現場の熟練者がいなくなったか、そもそもOJTに適する仕事ではなくなってしまったのか、このどちらかが大きいと思っています。
トヨタでクルマやものづくりを大切にしてきたベテラン社員に対して「モノのコト化」とか言ってもピンと来ないでしょうから、そもそもゲームチェンジしてしまった状況でOJTは成り立ちません。
これから創造的破壊するという際にはOJTは極めて相性が悪いわけです。
ですので、OJTが死んだ訳ではなくて、「熟練者と同じ動作を繰り返す事で技能が向上する」以外の仕事とOJTは相性が悪い。というだけの事です。
そして、ゲームチェンジに対応してビッグピクチャーを描ける社員など早々いません。
日本という国自体がゲームチェンジするという明治維新後の明治政府において、優秀な人材が多数命を落とした事もあると思いますが、日本全体をデザイン出来る力を持っていたのは大隈重信と江藤新平の二人しかいなかっというのを聞いたことがあります。
会社にもしそのような人材がいたら今は活躍すべき時だと思いますが、平時の気分がまだ抜けていない日本企業はちょっと厳しい気がします。