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さぷログ

メーカーの人事部門で働いています。

研修担当者は仕事をやったフリばかりの人なのか

さぷさんです。大企業で研修担当者だったことがあります。

さて、ちょっと前にリンク先の記事がバズっていました。

「仕事やってるフリ」ばかりしてた人の話。
https://blog.tinect.jp/?p=74400

ものすごく要約しますと、研修の効果測定を無料で申し出たところ先方に断られてしまった。研修の効果がないということが分かったら面倒くさいことになるからだ。仕事をやってるフリばかりする人は多い。それって良くないよね。

というような内容です。僕も研修を担当していましたが、おそらく同じような申し出があったとしても丁重に断ると思うのですが、僕も仕事やってるフリばかりの人なのでしょうか。ちょっと考えてみたいと思います。

まず、前提としてこのリンク先の記事を見た印象ですが、この方が扱っていた研修とは、大企業で実施されている階層別研修なのではないかと思います。

管理職登用時の研修など、定期採用で入社した社員が昇格等の節目節目で受講することになる研修なのですが、大体はリーダーシップ、コミュニケーション、コンプライアンス、ハラスメント防止などを3日間くらいで実施するようなカリキュラムが大企業では一般的だと思います。(コロナ禍になり、今はリモート研修が増えていると思いますが)

よくある例として、リーダーシップやコミュニケーションなどの講義を社外に依頼し、コンプライアンスやハラスメント防止などは社内講師が務める事が多いと思います。

ですので、リンク先の著者が無料の効果測定を申し出たのはリーダーシップやコミュニケーションがどのように向上したのかを定量分析するという提案だったと推測します。

ここで一旦遠回りになってしまいますが、階層別研修と対比する研修として、職能教育というものがあります。

例えば、CADの使用方法の講習や営業アポイントのとり方など、より実践に即した教育を指します。なぜ職能教育の話をしたかというのは後で説明します。

さて、研修の効果測定として最も有名なのはカークパトリックの4段階評価法です。以下の記述はリンク先に記載されているものをお借りました。
https://www.elc.or.jp/keyword/detail/id=82

レベルが上であるほど効果的な効果測定が出来るというものです。

・レベル1:Reaction(反応)
受講直後のアンケート調査などによる学習者の研修に対する満足度の評価

・レベル2:Learning(学習)
筆記試験やレポート等による学習者の学習到達度の評価

・レベル3:Behavior(行動)
学習者自身へのインタビューや他者評価による行動変容の評価

・レベル4:Results(業績)
研修受講による学習者や職場の業績向上度合いの評価

ぱっと見てまともな事が書かれているので、この手段で研修の効果測定をすればいいのではないかと思ってしまいますが、実際はそう簡単ではありません。

リーダーシップやコミュニケーション能力など、レベルが高い人がいるのは確かですが、前述の通り、このような能力を駆使するマネジメントというものは全人格的に行われるものです。

つまり、生まれもった気質、今までの全経験、思想信条などが分かちがたく総合的に発揮されるものがリーダーシップやコミュニケーションですから、階層別研修で身についたものなのか否かという腑分けした定量的な把握は個人的には不可能だと思っています。

一方でCADのスキルや営業のアポイント成功率など、職能教育については効果測定が可能だと思います。なぜなら、そもそも職能教育は具体的なスキルアップを目的としており、ある程度テクニックで再現可能性がある内容であるためです。

リーダーシップやコミュニケーションなどの研修の効果測定を一度でも真剣に考えた担当者は基本的にこの壁にぶち当たってますので、そもそも無理筋なリーダーシップやコミュニケーションの効果測定で社員をモルモットにされたくないと思うのは研修を委託している企業側としてはほぼ想定される反応だと思います。

最近もリスキリングやDX人材の育成に関する記事が日経新聞によく載っていますが、基本的に人材育成は自己啓発OJT、off-JT(集合研修)の順序で大切であると言われて来ました。

ただこれは高度成長期くらいの人材育成でよく言われていたことで、今の風潮とは異なる部分があるのですが、日本の大企業はそもそもoff-JT(集合研修)に期待していないという不都合な真実があります。

つまり身も蓋もない言い方をしてしまうと、終身雇用前提の企業における階層別研修は管理職登用時などのセレモニー的な色合いが強く、どちらかというとロイヤリティの強化や他部門との交流などが実は主な目的だったりする訳です。

つまり、企業側が研修の効果測定をやりたくない理由は、そもそも階層別研修内容に期待していないということと、そのような枠組みの中でもなんとかリーダーシップやコミュニケーションに関する研修実施効果を高めようとして効果を確認したいと思ったとしても、全人格的に行われるこれらの能力は切り出して把握できるものではないという二重の困難さがあるためです。(僕もこの大きな構造に気が付くまでは研修の効果を真面目に測定したいと思ったことがありました。若かったですね)

ですので、一番上のリンク先の記事は半分は合っていて、半分は外れていると思います。

企業はそもそも研修自体に期待していないという意味ではやったフリの仕事の最たるものと言えますが、ではリーダーシップやコミュニケーションの効果測定をやったところでうまく行かないのは目に見えています。

そして、上記エントリーでは、研修担当者の残念さをこれでもかと書かれていますが、企業側にとってさらに不都合な真実は、研修担当者にエース級は配属されることはまずありませんので、残念な人材に遭遇する可能性が高くなります。

それは仕事をやったフリではなくて、そもそも仕事が出来ないという救いのない事実なのですが、書いていて辛くなってきたのでこの辺でやめておきます。

あと、研修の効果測定は未だ有効なものは開発されていないと思っているのですが、上記エントリーの筆者の方がどのような効果測定を実施されようとしていたのか気になるといえば気になりますね。