さぷさんです。自称DX人材です。
さて、この前同僚からメンタルヘルスのAIサービス導入について相談を受けたのでその事について書いてみたいと思います。
インターネット上で公開されている企業におけるメンタルヘルスの統計を探してみたんですが、厚生労働省の「平成30年 労働安全衛生調査」が一番参考になりそうでした。
従業員1000人以上の大企業の場合、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した従業員の割合のボリュームゾーンは10〜29人の42.1%でした。弊社も部署にもよりますが長期間休職している従業員が1〜3%だというのは、体感的に一致しています。
ハインリッヒの法則を出すまでもなく、メンタルヘルス予備群はおそらくかなりの割合になると思われる中で、メンタルヘルスの早期発見とラインケアは非常に重要です。
AIによるメンタルヘルスの予知と聞くとなんだか画期的な気がして少し期待してしまいますが、本当にそうなのか、考察していきたいと思います。
まず、そもそもの話ですが、例えば従業員が1000人の企業で、メンタルヘルスが仮に2%だとすると、メンタルヘルスのデータは20名分という事になります。
大数の法則と言いますが、サンプルは多ければ多いほど傾向が安定的に表れます。少ないサンプルの場合はバラツキがある状態ですから、本来参考にすべきでないパラメータを拾ってしまったり、逆に参考にすべきパラメータをスルーしてしまう可能性があるのではないかと思っています。
あと、同僚がシステム会社から提案を受けたメンタルヘルスのAIサービスの資料をちらっと見せてもらったのですが、当然AIなので機械学習させるデータセットが必要であり、それは以下のようなデータであると書かれていました。
就業管理データ、人事評価データ、長期欠勤の申請書、360度フィードバックの結果(本人と上司)などが必要との事でした。
つまり、長期欠勤者の勤務表データで欠勤に至る過程を把握したり、半期毎の目標管理の結果の人事データと360度フィードバックの結果による本人の傾向、また上司の360度フィードバックの結果も加えることでハラスメントの傾向があると思われる上司の傾向などを機械学習によって顕在化させようという事だと思います。
まずは就業管理データについて考えてみたいと思います。
弊社はウェブの勤務表を導入しているのですが、残業時間を少なく申請している社員が少なからずいるという事実があります。
所謂サービス残業なので、弊社も会社として固く禁じているのでなんとかしなければならないのですが、現実として一定数のデータは正しいデータではありません。
典型的なガーベッジインガーベッジアウトですが、機械学習としてAIが間違った結果を導き出してしまう可能性があります。
具体的に言いますと、サービス残業をしていたある社員がメンタルヘルスによる長期欠勤になってしまったとして、メンタルヘルスが発生する閾値が低く見積もられてしまい、正直に申請している人との差をAIが見つけられなくなってしまうという事になってしまうかもしれません。
また、社内ルールではウェブの勤務表は基本的には翌日には入力を完了させなければならないのですが、これも残念な事に月末に一気に入力する社員が一定数います。忙しくて余裕がない社員は特にそのようにしてしまいがちですので、仮にメンタルヘルスが危険性が増しているとして、いくら優秀なAIでも、データが無いことには分析は出来ませんので、メンタルヘルスの早期発見に支障が出ると思います。
あと、AIのチューニングの問題もあると思うのですが、例えば変化点を一週間で把握したいとした場合、基本的に過去の勤務表の傾向を把握しつつ、直近一週間のデータで把握することになると思うのですが、直近一週間だけだとデータが少ないので、メンタルヘルスではない人をメンタルヘルスだと判断してしまったり、またその逆も発生すると思います。
ですので、変化点は一ヶ月くらいで見たほうが確実な気がしますが、そうすると今度は症状がある程度悪化してからでないと見つけられないという悩ましさが生じるので、このチューニング作業はなかなか難しいと思います。
また、システム担当としましては、ウェブの勤務表からメンタルヘルスのAIシステムに恐らくデイリーのバッチでデータ連携させなければならないので、インターフェースの構築でひと手間かかると思います。
次に評価は評価について考えてみたいと思います。評価は会社や管理職にとって悩ましい作業です。営業職はある程度数字で判断する事が出来るかもしれませんが、優良顧客を担当しているのか、新規開拓を任されているのかで数字は変わってきます。
また、コンスタントにパフォーマンスを上げている社員と、日頃はローパフォーマンスだけど今季は頑張っていた社員がいる場合にどちらを評価するのかという問題もあったりします。
つまり、これほどに大事な人事評価もかなり定性的なものであって、管理職も人の子ですから、公平な判断をしようと思っても評価の甘辛はどうしても出てきてしまいます。
ですので、評価の傾向を数年分解析したらそれなりに信頼できるデータになると思いますが、直近の人事評価だけでは、AIが判断するのに十分なデータなのか疑問です。
そういう意味では360度フィードバックの結果は複数人による評価のデータになりますから、それなりに使えるかもしれません。
ただ、360度フィードバックの結果をメンタルヘルスのAI解析に使用しているというのは、なかなかのインパクトですから、会社が黙って使用してそれが公になると問題な気がしますし、では正直に社員に公表するかというと、それもちょっと難しい問題かなと思います。
また、個人情報保護法との整合性としては、メンタルヘルスのAIサービスを業務委託だとした場合は社員へ開示はしなくていいという理屈に出来そうな気がしますが、個人情報保護法成立時にこのような使い方は想定されていなかったと思うので、社員に同意書を取ったほうが確実かもしれません。ここは個人情報保護に詳しい弁護士に相談したほうがいいと思っています。
そして、仮に諸々の条件をクリアして、メンタルヘルス予知のAIサービスを導入したとして、AIがメンタルヘルスの可能性があると判断した社員をどのようにケアしていくのかというのもハードルが高いと思います。
本人がどのように感じるのか、パワハラ傾向の上司だったとして伝えるべきなのか、直属の上司ではなく、人事スタッフや産業医が対応すべきではないのか等々、運用の仕方はかなり重要になってくると思います。
と言う事で、メンタルヘルスのAIサービスを個人的には積極的に導入したいとは思いませんが、一番大切なのはメンタルヘルスになりかかっている社員の早期発見とケアです。
本来は上司が部下をしっかり見るというのが基本ですが、結局それが出来ていないというのが事実な訳ですし、在宅勤務が急速に進んだことでさらに部下が見えにくくなってしまっています。
多少精度が良くなくても導入して、疑わしきはヒアリングをするようにして、会社として真剣に取り組んでいるというアピールも含めて実施するという事であれば導入するメリットがあるかもしれません。